1:嚥下(えんげ)って?

嚥下とは...「口から食べて飲み込むこと」。

普段、当たり前に行っていることですが、それが難しくなることがあります。

「むせ」た事がない人はほとんどいないと思います。その時は咳き込んで何とかおさまった...かもしれませんが、これが頻繁に、何か食べるたびに起こっていたらどうですか?

口から食べるのがちょっと怖くなりませんか?

今、この時にも口から食べる事ができず

「鼻からチューブを入れ」たり「お腹に穴を開けて」栄養剤を摂ったり、または「点滴」によって生きていくためのエネルギーを得ている人がたくさんいます。「食べること」って必ずしも生きていくために必要な栄養をとるためだけではありませんよね?「食べること」が「生きる楽しみ」でもあると思います。

このコラムでは「いつまでも 美味しく・楽しく・安心して口から食べる」ためのヒントになるお話をさせていただきます。

2:食べる過程

食べる過程....専門的に言うと「先行期→準備期→口腔期→咽頭期→食道期」などの言葉を使うのですが、ここでは分かりやすく「気持ち」→「パクッ」→「モグモグ」→「ゴックン」→「食道」という言葉でお話ししますね。

この5段階の中にもいろんな要素があるのでそれらを詳しくお話ししていきます。

「口から食べられない原因」がどの段階にあるのか?

もちろん一つとは限りません。色々な要素が複雑に絡み、そういう状態になっているとは思いますし、その全てが解決できるものでもないでしょう。しかし嚥下の仕組みを「知る」事で「何も分からない不安」から抜け出せるのでは?と思います。

3:気持ち 「食べる」と決めたから「食べる」のだ

あなたは食べる時に何を考えますか?

「これにはどんな栄養があって、カロリーはどれぐらいで....」....そんな風に考えてる人はそう多くはないと思いますが、私たちは「食べる」という行為を行うにあたって一瞬の間に色んなことを考えている...はずです。

以前に食べたことがあるものなら「味」の予想はつきますよね?

「甘い・辛い・酸っぱい....」見た目から「固い・柔らかい」湯気がたってるなら「熱そう」などなど。

食べたことがないものでもなんとなく「こういう感じ」というのは予想して食べていると思います。

それが「思ったより辛くてびっくりした」ことや「熱すぎて口の中やけどしちゃった」などという経験もあるのでは?

どんな食べ物であろうともそれを「食べる」と”決めた”からあなたはそれを口に運んだはずです。必ずしも「食べたいから食べる」と言うわけではありません。「お腹いっぱいだけど残すのは悪いから食べる」「苦手なものだけど作ってくれた人に悪いから食べる」そんな理由で食べる場合もあるとは思いますが、まずは「自分で食べる」と決めたから「食べる」と言うことです。

小さい子や動物の「食べる」の場合、本人が食べたくなければスプーンを口に運んであげても頑として口を開けなかったり、ペットだったらエサのランクを下げたら食べなくなったり....など(笑)。子供や動物でも自分で「食べる」と決めないと「食べる」事はしないのです。

4:気持ち 「食べない」時、何が考えられますか?

例えば高齢者の食事介助などで、その方が「食べて」くれない時。その理由をお話ししてくれない場合どんなことが考えられるかいくつかあげてみます。

「お腹が空いていない」「嫌いな食べ物」「体調が悪い」「見た目が美味しそうじゃない」「心配事があって食欲がない」「歯が痛くて噛めない」などなど。もしかしてそれが「食べ物だとわからない」場合もあるかもしれません。寝起きや薬の影響で頭がぼーっとして食欲がないことも考えられますね。

私の場合。旅先の中国の屋台で「サソリの唐揚げ」があったのですがどうしても「食べる」事は出来ませんでした。自分の中で「サソリ」は「食べるものではない」という気持ちが強かったからでしょうね。食べた事がないものでも「食べた事がないから食べてみたい・食べたくない」という両方が考えられます。

あの時、もしかして他の人が食べて「美味しい!」と言ってたら....食べられた???

うーん....今考えてもサソリは「無理」ですね^^;

5:さて、どうやって食べる?

例えばお寿司。手で?それともお箸を使いますか?

お家で食べるか、お店か。そして一緒に食べる人にもよるかも知れませんね。おせんべいもバリッと噛んで食べるか、一口大に割って食べるか。家だとバリバリ食べている人も、人前では一口大に割って口に入れたり...あ、前歯が痛かったり、グラグラしてたら、いつもはバリッと食べている人も割らざるを得ないかも。どういう風に食べるかも次の「パクッ」に行く前に考えているんですよ(無意識だとしても!)。利き手を骨折して上手くお箸がもてない....そんな場合、どうやって食べますか?反対の手で?スプーン?ものによってはスプーンでも食べにくいものもありますね。

ご飯を食べる場合、お茶碗によそわれたご飯ならお箸やスプーンなど道具が必要ですがもし、それがおにぎりだったら?同じ「お米」なのにお茶碗によそったご飯を手づかみで食べるのはちょっと....なのに形を変えただけで手づかみで食べるのが当たり前になる。

手が不自由な場合、そんな工夫で食べるハードルが下がることもありますよ!

 

6:パクッ

ここでは口が「開く」「閉じる」という動作を行います。

当たり前...ですが、もし何らかの事情で口が開けられなかったら?顎を骨折してガッチリ固定されていたり、顎が外れて開けられない、閉じられない場合も。顎関節症で開けると痛いなど。そしてどれぐらい「開ける」かもちゃんと自分で判断しているんですよ。大きいハンバーガーなど「むむむ...これはパクッとやるのは手強い ....」なんてことも考えているはずです♪

そうそう、意外と盲点なのが「乾燥」です。冬場など唇が乾燥して口を開けた瞬間に切れて痛い思いをしたことはありませんか?唇の乾燥もそうですし、お口の中が乾燥していると「食べ物」がある種の凶器になることも考えられます。唾液で潤っているのが理想ですが、食べる前にお口の中を潤わせておく準備が必要かもしれません。

7:それが何かわからなかったら?

機能的に問題がなくてもなかなか口を開けることができない場合があります。これは「気持ち」の段階とも関係が。4でも書きましたが、「それが食べ物だとわからない」また「安心して食べてもいいものかわからない」など「食べる」と決めることができない時です。もし、目隠しされた状態で突然何かを口に入れられようとしたら、あなたはすんなり口を開けることができますか?きっと口をぎゅっと結んでしまうと思います。

それが「何かわからないから」ですよね?目が見えない状態でも匂いで『あ、これはカレー』などと判断がついたり、誰かが「これはアイスクリームだよ。冷たいよ」などとそれについて自分が『食べてもいい』と判断できる情報を教えてくれたら口を開けやすいですよね?

また、居酒屋で唐揚げについているパセリ...噂で前の人のを使いまわしてるって聞いた....とか『食べたくない』情報がある場合もパクッにはいかないと思います。私の知り合いでお刺身のツマをずっとプラスチックでできた作り物と思ってて20代半ばまで食べた事がなかった人が!

「大根だったなんて知らなかった!!!!」とかなり衝撃だったそうです(爆)。

8:前歯の役割

最初の一口。齧って一口大にする必要がある時には前歯を使います。最初から適正な一口大の場合(大きなものだったら手やお箸などで一口大に形を変更)は舌の上か奥歯ですね。食べ物の大きさで「前歯を使うかどうか」が決まってきます。前歯が痛い、グラグラしている、もしくはない....場合は「前歯を使わなくてもいい食べ物(の状態)」を選ぶ必要があります。実は「歯並び」も関係あり。

上下の歯に隙間があって接触しない状態の時は上下の歯で「切って(一口大の)適正な大きさにする」ことができないのです。犬歯から犬歯の間の歯は「切歯(せっし)」という名前なのですが本当にその名前の通り「切る」働きをしているのです。

実はこの→の写真....私の噛み合わせを下から撮ったものです。上の真ん中の切歯が捻れて生えていて隙間がありますよね?そしてさらに噛み合わせが浅い。そうすると食べ物によっては前歯でかみ切る事が難しい場合があります。麺類を食べる時、ちゃんと上下の歯が噛み合っている方はすすった麺を適当な大きさ(量)で噛みちぎってお口の中に取り込んでいると思うのですが、私は上の歯と舌先で挟んで切っています。そうしないと切れないからです。それは誰に教わったわけではなく無意識だけれでも自分の経験からそうして食べるようになっていったということ。人は誰でも、自分の歯や口の状態にあった「食べ方」を獲得しているのです。

9:モグモグに大事なのは...

パクッと一口やった後、「咬む」ということを行います。

「咬む」ことを表す言葉....「カチカチ咬む」「モグモグ咬む」がありますね(他にもあるか...笑)。食べる時に行なっているのは「モグモグ咬む」方「カチカチ」はどんな時に使ってるかというと....例えば歯医者さんで噛み合わせをみる時など。赤い紙を上下の歯の間に挟んで「はいー、カチカチして〜」などやったことありませんか?

同じ「咬む」という動詞ですがその動きは全く違います。

では「カチカチ」咬む、「モグモグ」咬む、の両方の動きをしてみてください。「カチカチ」は上下運動、「モグモグ」は上下はもちろん、横や斜めなど複雑な動きをしていますよね?

そして大事なのは「舌」の動きです。カチカチはほとんど舌が動いておらず、モグモグは舌がかなり動いているのがわかると思います。なぜここにヤギの写真?と思っている方もいると思いますが(笑)、ヤギや羊の口元を観察すると「モグモグ」がどんな風に行われているかよ〜〜〜〜くわかると思います。人間もここまで極端ではないものの食べる時はこんな風に「モグモグ」やってるんですよ!

10:モグモグの時の口の中

では、モグモグしている時の口の中がどうなっているかおせんべいを食べた時を例にしてお話します。手で割るなり、バリっとかじるなどして一口大の物が口の中に入った後、硬いおせんべいは奥歯で噛み砕かれ、すり潰され...していると歯の上から舌側や頬側に落ちてきます。それを舌ですくいとりまた奥歯に戻す、そしてまた咬む・すり潰すを行い、落ちたのを舌ですくいとり....を何度か繰り返しているうちに硬かったおせんべいは細かくなり、唾液と混ざり、ドロドロのペースト状になり....と形状が変わっていきます。次のゴックンに行くまでに「ゴックンしても安全な(ドロドロの)状態」にするのです。「硬いおせんべい」を何回噛んで飲み込んでいますか?もし、10回噛んでいたとしたら試しに5回しか噛まないでゴックンしてみてください。おそらく粒々が結構残っていたり、パサついていたり....と飲み込むのは難しい状態だと思います。この状態で無理に飲みこもうとしたら喉が詰まったり、粘膜が傷ついたりしそうですよね?

「よく噛んで食べる」ことはダイエットや脳への刺激になり良いこと、と言われていますが「安全に食べる」ためにもとても重要なことです。○回噛まなければいけない、と言うものではなく「飲み込むのに適したドロドロの状態になる」まで咬む必要がある、ということです。

11:ゴックン....いつしてますか?

食べる過程は「気持ち」→「パクッ」→「モグモグ」→「ゴックン」の順に進みます...とお話ししました。では実験です。何か一口食べてモグモグしてください。はい、次の過程はゴックン.....あれ?????いつゴックンしたのかな?気づいたら口の中にもう食べ物がない!!!!そんな状態ではないすか?はい、では、また実験です。次はコップでお水を飲んでみましょう。.............「ゴックン」した!今した!!!というのがはっきりしてると思います。同じ喉を通る過程はあるのですが「食べ物」と「水分」で「ゴックン」の仕方が違うのがわかりますか?「食べ物」はモグモグしてるうちにいつの間にか「ゴックン」していて、飲み物はいったん「喉の奥に溜めて」から一気に「ゴックン」していますね。

「食べ物」を飲み込む時は「モグモグ」しながら少しづつ「ゴックン」もしているのです。

では問題です。おでんの巾着などのように「水分」と「固形物」でできた食べ物はどんな風に喉を通っていくでしょう?これも実験してもらいたいところですが、そうそうおでんの巾着が目の前にある人もいないと思うので(笑)お教えします。「水分」が先に喉を通ります。今度食べる時実験してみてくださいね!

12:ゴックン後の口の中

モグモグの段階で固まりだった食べ物は粉々になり、ドロドロになり....と、どんどん形を変えていきました。

でも「ゴックン」した後って...口の中は結構綺麗だと思いませんか?いっときは口の中はかなり凄い状態(?)だったと思うのですが...ゴックンした後はそうそう食べ物が残っていることはなくスッキリしていると思います。

それは....舌がお口の中を綺麗にする役割も兼ねているからです。うっかり歯に挟まったもの(例:えのき)なんかも舌や頬を上手く動かして取ったり....。モグモグしながら口中のあちらこちらに散らばった食べ物を舌でかき集めて、喉に運んでいるのです。舌はもちろん味を感じる役割もありますが、お口のお掃除にも大活躍!なので舌が上手く動かせないとお口の中には食べかすがいっぱい残ってしまいます。「歯磨き」ももちろんですが、「舌が動く」ことはお口の中を清潔に保つことにもなるのです。片麻痺の場合は舌の半分(麻痺がある方)だけ汚れが残っていることも。

麻痺がない場合でも舌の表面が白くなっていることがありませんか?これは「舌苔(ぜったい)」と言われています。薬や体の水分の関係などもあるので全部がそうとも言えないのですが、舌が上手く使えていない場合も「舌苔」は付きやすくなります。

13:舌の動きと舌苔の関係

ゴックンするために....通常は舌と上顎で食べ物を挟んで喉の方に持っていっています。通常は...としたのはそうではない人もいるからです。

ここで質問。今、あなたの舌先はどこに触れていますか?

「上の前歯の裏」「下の前歯の裏」.....などなど。理想は「上の前歯の裏....の少し後ろの歯茎(上顎の先)」です。ここは「スポット」と呼ばれています。試しにこの「スポット」に舌先を当ててみてください。「舌が丸まった感じ」など違和感を感じる方は普段はもっと低い位置に舌先が当たっているかと思います。「ゴックン」する時に舌は「スポット」に尖端があたり、舌の表面が上顎に吸い付くようにして食べ物を奥に運んで行きます。なので「ゴックンするたびに」舌と上顎は擦れる状態です。この擦れる....のがあまりない場合、舌の表面はよごれがたまりやすくなります。

2016.1.12

嚥下コラム(1〜6)始めました♪